2025年8月29日から、米国向け輸出に大きな制度変更が始まります。
これまで輸入価格が800ドル以下であれば免税となっていた「de minimis(デミニミス)制度」が廃止され、低額商品の輸出でも必ず関税が課されることになりました。
さらに、この制度変更を受けて eBayからも公式発表 が行われ、SpeedPAKを利用した発送に関する新たなルールや手数料体系が明確化されています。特に 米国宛はDDP(関税込み配送)が必須 となり、関税処理手数料や通関手数料もセラー側の負担として加わります。
これにより、日本からの発送手段である 郵便(小型包装物・国際小包)、EMS、DHL・FedEx・UPSといったクーリエ便 すべてに影響が及び、従来の「低額商品は免税で気軽に送れる」という仕組みは完全になくなります。
本記事では、米国のde minimis廃止とeBay公式発表をあわせて整理し、セラーがどのように対応すべきかをわかりやすく解説します。
※本記事は全体像解説です。価格調整の実務対応はこちら

米国の「de minimis」制度が廃止に
これまでの制度(800ドル以下免税)
米国では長らく、輸入価格が 800ドル以下の貨物については関税を免除する「de minimis(デミニミス)制度」 が運用されてきました。
この仕組みにより、低額商品の越境EC取引はスムーズに行われ、セラーにとっても米国市場へ参入しやすい環境が整っていました。特に小型包装物や国際郵便を使った発送では、関税を気にせず販売できる点が大きなメリットとされていました。
2025年8月29日からの新ルール(全貨物課税)
しかし、2025年7月30日に発表された大統領令により、この制度は廃止されることが決定。
2025年8月29日 0時01分(米国東部時間)以降に到着するすべての貨物は、価格の大小を問わず関税対象となります。
つまり、「800ドル以下だから関税ゼロ」という従来の考え方は通用せず、低額商品でも必ず課税されるルールに変わります。
この変更は、eBay輸出セラーにとって大きなインパクトがあり、販売価格の見直しや、バイヤーに対する事前の説明を含めた戦略的な対応が欠かせません。
クーリエ・EMS発送への影響
DHL、FedEx、UPS、EMSもすべて関税対象
de minimis制度の廃止は、DHL・FedEx・UPSといった国際クーリエ便、さらに日本郵便が提供するEMS(国際スピード郵便)にも直ちに適用されます。
これまで800ドル以下の貨物については免税で米国に輸入できましたが、2025年8月29日以降はすべての貨物が関税対象となり、米国税関(CBP)の通関手続きが必要となります。
EMS=クーリエ扱い(flat duty適用外)
注意すべき点として、EMSは「国際郵便」の一種ではありますが、米国に到着した後はクーリエ扱いとして処理されます。
そのため、郵便物に導入される6か月間限定の「定額課税(flat duty)」の対象外となり、DHLやFedEx、UPSと同様に通常の価格比例課税(ad valorem) が適用されます。
今後は正式な通関手続きが必須に
この変更により、すべてのクーリエ・EMS発送は正式または簡易通関の対象となります。
従来は免税の範囲でスムーズに配送できていた低額商品でも、通関に時間がかかる可能性があり、配送遅延や追加書類の提出を求められるリスクが高まります。
特にセラーに求められるのは、
- バイヤーに関税負担が発生する前提で価格設計を行うこと
- インボイスやHSコードを正確に記載し、通関に備えること
クーリエ・EMSを利用する場合、これらの点を徹底することが取引の安定につながります。
郵便(小型包装物・国際小包)への特例
6か月間のみ適用される「定額課税(flat duty)」とは
国際郵便ネットワークを利用した小型包装物や国際小包については、de minimis廃止後も6か月間の特例が設けられています。
この期間中は、通常の価格比例課税(ad valorem)に加えて、定額課税(flat duty)による処理が認められます。
IEEPAタリフ率に応じた金額(80ドル/160ドル/200ドル)
flat duty の課税額は、発送国に適用される IEEPAタリフ率 によって決まります。
IEEPAタリフ率 | 定額課税額 |
---|---|
16%未満 | 80ドル |
16%〜25% | 160ドル |
25%超 | 200ドル |
この方式は制度開始から6か月間のみ選択可能であり、その後はすべて通常の価格比例課税に移行します。
ちなみに日本は関税率15%ですので、郵便で発送された場合は $80 の定額課税(flat duty) の対象となります。
発送者は選択できず、USPS/CBPが判断
この定額課税は、発送者が自由に選べるものではありません。
米国に到着後、USPS(米国郵便公社)やCBP(米国税関)側で処理方式が自動的に決定されます。
そのため、私たち発送者は flat duty か通常課税かをコントロールできない点に注意が必要です。
例:50ドルの商品でも80ドル課税の可能性
この仕組みにより、例えば 50ドルや100ドルの商品を郵便で発送した場合でも、一律80ドルの関税 が課されるケースがあります。
通常課税であれば数ドルで済む関税が、flat duty 適用によって高額になる可能性があるため、低額商品の郵便発送は特にリスクが高いといえます。
eBay公式発表:SpeedPAK利用時の新ルール
米国向けの de minimis 廃止を受けて、eBayから SpeedPAK 利用時の新しい発送ルール が公式に発表されました。セラーが実務で押さえるべきポイントを整理します。
$2,500未満はDDP(関税込み配送)が必須
SpeedPAKを利用する場合、申告価格が2,500ドル未満の貨物はすべて DDP(Delivered Duty Paid、関税込み配送)で発送することが必須 となりました。
つまり、セラー側が関税を事前に負担する形になり、バイヤーは「追加費用なし」で商品を受け取る仕組みです。
Economy便の利用条件
- 申告価格は 1,300ドル未満に制限
- 原産国が「米国」となる商品は混載不可
- HTSコードの提出は不要ですが、申告情報(品名・申告額・数量・重量・原産国)は正確に記載する必要あり
- すべて DDPでの利用のみ可能
関税・手数料の仕組み
SpeedPAKでは、関税や税金に加えて以下の手数料がセラー負担となります。
- 関税処理手数料:発生した関税・税金の 2.1%
- 輸入通関手数料:225円/パッケージ
関税や税金の金額は申告内容と米国税関の判断に基づいて算出され、過剰分は返金・不足分は追徴される方式です。
正確な申告が不可欠
今回の公式発表で強調されているのは、正しい申告がセラーの責任であるという点です。
- 品名
- 申告額
- 数量
- 重量
- 原産国
これらに誤りや虚偽があると、通関遅延や貨物没収、罰金や損害賠償につながるリスクがあると警告されています。
今後の注意点と対応の方向性
「低額だから免税」は通用しない
2025年8月29日以降は、商品価格が50ドルでも100ドルでも、米国向けのすべての貨物に関税が課されるのが新ルールです。
従来の「安価な商品なら免税で届く」という考え方は完全に通用しなくなります。
バイヤーへの説明が不可欠
特に郵便発送では、flat dutyの仕組みによって商品価格よりも高額な関税が発生する可能性があります。
例:50ドルの商品でも、flat duty 適用で一律80ドルの関税となるケース
このような場合に備え、事前にバイヤーへ関税リスクを説明することで、クレームやキャンセルを防ぐことができます。
価格設計は「関税込み」が前提に
eBay公式発表のとおり、SpeedPAKでは $2,500 未満の貨物はすべて DDP が必須です。
つまり、関税をあらかじめ販売価格や送料に組み込むことがセラーに求められます。
販売価格の見直しや、Shipping Policy で価格帯ごとに関税分を調整するなど、戦略的な価格設計が必要です。
通関手続きと書類整備を徹底
クーリエやEMSを利用する場合、インボイスやHSコードの正確な記載がこれまで以上に重要です。
書類に不備があると通関遅延や追加確認につながるため、発送者側での正確な記載を徹底することが求められます。
最新情報を常にチェック
今回の制度変更は大枠が示された段階であり、今後も各クーリエや郵便事業者から実務的な運用ルールが発表される見込みです。
セラーは、最新情報を追い続け、スクールやセラー仲間と共有しながら臨機応変に対応していくことが、輸出ビジネスを安定させるカギとなります。
まとめ
2025年8月29日から米国の de minimis(デミニミス)制度 が廃止され、800ドル以下の貨物でも必ず関税が発生するようになります。
- クーリエ(DHL・FedEx・UPS)やEMS:すべて通常課税の対象。EMSもクーリエ扱いのため、flat dutyは適用されません。
- 国際郵便(小型包装物・国際小包):6か月間だけflat duty(80ドル/160ドル/200ドル)が適用される可能性あり。ただし適用可否は発送者ではなくUSPS/CBPが判断します。
- eBay公式発表(SpeedPAK):$2,500未満はDDP必須、関税処理手数料2.1%+輸入通関手数料225円/件が加わり、正確な申告がセラーに求められます。
この変更により、「低額だから免税」という従来の感覚は完全に通用しなくなります。今後は 関税が必ず発生する前提で価格設計を行い、バイヤーに対しても関税込みで安心して購入できる環境を整えること が不可欠です。
実務ルールや運用は今後も各配送業者・税関当局から随時発表される見込みです。私たちセラーは常に最新情報をキャッチアップし、仲間と共有しながら柔軟に対応していくことが、米国輸出ビジネスを安定させる大きなポイントとなります。
📌 制度変更の全体像を理解したら、次は実務でどう対応するかが重要です。
